大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)200号 判決 1970年11月24日

原告 株式会社 二木

右代表者代表取締役 二木源治

右訴訟代理人弁護士 浅見敏夫

同 中村尚彦

被告 東京都北税務事務所長 福田正治

右指定代理人 牧成美

<ほか一名>

主文

被告が原告に対し別紙目録記載の土地建物につき昭和四二年一一月一日付でした不動産取得税賦課決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文と同旨の判決。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二当事者双方の主張

一  原告主張の請求原因

(一)  被告は昭和四二年一一月一日付で原告に対し別紙目録記載の土地につき税額を六二万四九六〇円、同目録記載の建物につき税額を一五万八六七〇円とする不動産取得税の賦課決定をして、その頃原告に通知した。原告は右決定を不服として同月三〇日東京都知事に対し審査請求をしたところ、同知事は昭和四三年六月二八日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年七月四日原告に通知した。

(二)  しかし、右賦課決定には違法なかしがあるので、その取消しを求めるため本訴請求に及んだ。

二  被告の主張

(一)  原告主張の請求原因事実は原告主張の賦課決定にかしがあるとの点を除き、すべて認める。

(二)  (抗弁)

右決定は次の根拠によって適法にされたものである。

1 二木源治は昭和三四年五月一五日別紙目録記載の土地を倉沢修から買受けてその所有権を取得し、同日付でその所有権移転登記を経由し、また、同年一二月二五日その地上に同目録記載の建物を新築してその所有権を取得し昭和三六年七月一七日付でその所有権保存登記を経由した。

2 そこで、被告は二木源治に対し右土地の所有権取得につき昭和三四年七月二〇日付で、また、右建物の所有権取得につき同年一二月一四日付で、それぞれ不動産取得税賦課決定をしたところ、同人は異議なく右税金を完納した。

3 ついで、原告は昭和四二年二月二三日二木源治といわゆる起訴前の和解をし、これにより右土地建物の所有権を取得し、これにつき同年七月二八日付で「真正なる登記名義の回復」を原因として、それぞれ所有権移転登記を経由した。

4 そこで、被告は原告が右同日二木から右土地建物の所有権を承継取得したものと認定して不動産取得税の賦課決定をしたものである。

5 そもそも登記簿上の所有名義人は反証のない限り真実の所有権取得者と推認するのが相当であるところ原告は右土地建物につき昭和四二年七月二八日付で所有権移転登記を経由したものであるから、右賦課決定には事実誤認を云為されるいわれがない。もっとも、右所有権移転登記はその登記原因を「真正な登記名義の回復」とし、あたかも右土地建物が二木源治を経由せず、昭和三四年中直接原告の所有となったかのように表示されているが、登記原因については登記官吏に実質的な審査権がないため、登記申請人においてどのような表示を受けることも可能である以上、原告のためにされた右所有権移転登記の登記原因の表示が原告の所有権取得の経過に合致するとはいえないのである。

三  原告の主張、抗弁に対する認否、反論

(一)  被告主張の抗弁中、1の事実は前記土地建物につき被告主張の所有権移転登記が経由された事実を認めるほか、すべて否認する。同2の事実は認める。同3の事実は原告が二木源治との起訴前の和解により右土地建物の所有権を取得したとの点を除くほか、すべて認める。同4の事実は認め、5の事実は否認する。

(二)  右土地建物につき原告が所有権を取得し、また被告主張の各登記がされた経緯は次のとおりである。

1 原告は二木源治が個人で営んでいた乾菓子製造販売の企業を昭和二六年五月法人組織に改め、資本金八〇万円全額を出資して設立し、自ら代表取締役としてその経営を主宰する、いわゆる個人会社であって、同人からその所有にかかる東京都板橋区所在の工場および同都台東区上野御徒町の通称飴屋横丁所在の店舗を賃借して営業に使用していた。そして、原告は表裏二面の経理操作をし相当額の売上を二木源治個人の名義で東京都民銀行板橋支店に簿外預金として蓄積していたが、昭和三三年五月右簿外預金を実質上の引当てとし、かつ二木源治所有の前記店舗(その敷地も併せて)を形式上の担保として同銀行から同人個人の名義で一〇〇〇万円を借入れ、これを資金として右同名義で大宮市所在の宅地を買受け、その地上に木造の店舗を新築し、同所で喫茶店「田園」を開業し、さらに昭和三四年五月右簿外預金を実質上の引当てとし、かつ同人所有名義の右土地建物を形式上の担保として同銀行から同人個人の名義で一〇〇〇万円を借入れ、これを資金として右同名義で本件土地を買取り、同年一二月その地上に本件建物を新築し、同所で喫茶店「クラウン」を開業した。しかし、そのように大宮市所在の土地建物および本件土地建物の所有権取得ならびに喫茶店の開業が二木源治名義でされたのは右資金借入の名義に符合させる考慮によるものであって、真実右各土地建物所有権を取得し、また右喫茶店の営業主となったのは原告にほかならないのである。

2 そして、原告は昭和四一年九月一六日以後東京国税局の調査により前記二重経理の実情が判明したため、過去五年間にわたる関係税額の増額更正の処分を受けるにいたったが、右処分においては原告が右1の経緯により本件土地建物の所有権を取得したものと認定された。そこで、原告はその所有名義を実体に符合させるため、昭和四二年二月二三日二木源治個人との間において右土地建物の所有権が原告にあることを確認するとともに同年三月三一日までに所有権移転登記を受けるべき旨の起訴前の和解をなしたうえ、右土地建物につき被告主張の所有権移転登記を経由したものである。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  被告が原告において昭和四二年七月二八日二木源治から別紙目録記載の土地建物の所有権を承継取得したものと認定して同年一一月一日付で原告に対し右土地につき税額を六二万四九六〇円、右建物につき税額を一五万八六七〇円とする不動産取得税の賦課決定をして、その頃原告に通知したこと、原告が右決定を不服として同月三〇日東京都知事に対し審査請求をしたが、昭和四三年六月二八日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をされ、同年七月四日その通知を受けたこと、そして、次の事実が右課税において事実認定の根拠の一部をなしたこと、すなわち、二木源治が右土地につき昭和三四年五月一五日倉沢修から所有権移転登記を受け、また右建物につき昭和三六年七月一七日所有権保存登記をし、ついで、原告が昭和四二年二月二三日二木源治と起訴前の和解をし、これに基づき右土地建物につき同年七月二八日付で「真正なる登記名義の回復」を原因として同人から所有権移転登記を受けたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、被告が原告に対してした右不動産取得税の賦課決定における事実認定の当否について判断する。≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  原告は菓子類の製造販売ならびに受託加工を目的とし、その代表取締役たる二木源治が従前個人で営んでいた菓子の製造販売業につき業態を昭和二六年五月法人組織に改め、資本金八〇万円全額を出資して設立し経営を主宰する個人会社であって、同人からその所有にかかる東京都板橋区所在の工場および同都台東区上野御徒町地内通称飴屋横丁所在の店舗を賃借して営業用に供し、逐年営業成績を向上させたが、会計処理上、二重帳簿を用い、その営業収入たる売上金の一部を正式帳簿に記入しないで無記名または架空名義の簿外預金とし、裏帳簿に記入して蓄積していた。そして、原告は喫茶店兼業を計画し、その店舗を建設するため、昭和三三年五月頃東京都民銀行板橋支店に無記名または架空名義で預け入れていた合計三〇〇〇万円前後の簿外預金を実質上の引当てとし、二木源治所有の前記工場および店舗を形式上の担保として同人個人名義で右銀行から一〇〇〇万円を借入れ、これを資金として右同名義で大宮市仲町一丁目地内に四七坪二勺の土地を買入れ、その地上に三階建の店舗を建造し、右土地につき所有権移転登記、右建物につき所有権保存登記を各経由し、さらに昭和三四年五月同人所有名義の右土地建物を形式上の追加担保として、同銀行から同人個人名義で一〇〇〇万円を借入れ、これを資金として右同名義で同月一五日倉沢修から本件土地を買入れ、その地上に本件建物を築造し、その後昭和三八年五月頃までの間に簿外の営業収益で右借入金を完済したものである。さようなわけで、大宮市所在の土地建物および本件土地建物の所有権取得ならびにこれに関する登記がすべて二木源治個人の名義でなされたのは右銀行からの借入名義に符合させる考慮によるものである。なお、原告は右各土地建物を喫茶店業の店舗に使用するについては二木個人から賃借した形式をとり、正式帳簿上その賃料を同人に支払ったものとして記入していたが、裏帳簿にこれを収入として記入していた。

(二)  ところが、原告は昭和四一年九月以後東京国税局の調査により前記のような会計帳簿の二重操作を摘発され、二木源治個人名義の前記土地建物をいずれも簿外資産と認定され、その結果、過去五年にさかのぼって法人税の増額更正処分を受け、一方、二木個人は右各土地建物の賃料収入がなかったものと認定され右同期間の所得税の減額更正を受けた。そこで、原告は経理を是正することとし、二木個人との間において前記起訴前の和解により右各土地建物の所有権が原告にあることを確認し昭和四二年三月三一日までに所有権移転登記を受くべき合意をしたうえ、右各土地建物につき同年七月二八日付で「真正なる登記名義の回復」を原因として同人から所有権移転登記を受けたものである(本件土地建物について右和解に基づき右登記がされたことはさきに認定したとおりである。)以上

してみると、本件土地建物につき先ず二木源治のためにされた所有権移転または保存登記およびこれについで原告のためにされた所有権移転登記はその所有権変動の真実の過程に合致するものということができず、むしろ原告は右土地を倉沢から買受け、また右建物を建築して、いずれも二木個人を経由しないでその所有権を取得したものと認めるのが相当である。もっとも、二木源治が被告から右土地所有権の取得につき昭和三四年七月二〇日付で、また右建物所有権の取得につき同年一二月一四日付で、それぞれ不動産取得税の賦課決定をうけ、異議なく右税金を納付したことは当事者間に争いがないが、右事実だけでは右土地建物の所有権変動の実態に関する前記認定を動かすに足りない。

したがって、原告が右土地建物の所有権を二木から承継取得したものと認定に基づく本件不動産取得税賦課決定は事実誤認によってされた点に看過を許さぬ違法なかしがあるというべきである。

三  よって、右決定の取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 小木曽競 裁判官 山下薫 裁判長裁判官駒田駿太郎は転補につき署名捺印することができない。裁判官 小木曽競)

<以下省略>

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